PRESENT

ピアニッシモは震えた (2016)  油彩 / 6S
ピアニッシモは震えた (2016)  油彩 / 6S

265th Exhibition

──  み て! ──

第18回 平澤重信展

 

2024年 03月28日 (木) 〜 04月14日 (日)

※ 04月13日(土) PM 作家在廊予定

 

うす曇りの午後、誰もいない広場では、数知れない思い出のかけらが、不規則な風に吹き上げられて、花びらのように舞い踊っている。せめぎ合い、混じり合い、響き合うかけらたち、その下を横切るひそやかな散歩道は、いつか広場の彼方へと消えて見えない。そして今、柔らかな詩が紡ぎ出される、かすかに流れ来る叫びと共に。

なにげないもの (2004)     油彩 / 4F
なにげないもの (2004)     油彩 / 4F

平澤 重信 Jyushin Hirasawa (1948〜)

 

平澤重信の描き出すイメージ、それをどう表現したら良いのだろう。どことなくもの哀しいような、うら淋しいような、しかしどこかしら軽やかで柔らかな、懐かしく澄んだ風の吹くような、そんな言葉ではつかみがたい不思議なアトモスフィア。何か漠然としたある気配、そこはかとない風情、とらえどころのない陰影、それとなくにじむ情緒、そんな言葉にはならない雰囲気・空気感を「アトモスフィア」という言葉で呼ぶのなら、その表現の根幹を成すものは、正しくその言葉にならない空気感=アトモスフィアなのだろう。それは大作を描く時により顕著となるのだが、画面に様々なキャラクターは登場しても、そこに物理的な中心は置かれて居ない。言い方を換えれば、全てのモチーフはある潜在的な中心を暗示するが、しかしその中心には何も無い。ただ言葉になら

ない想いだけが、軽やかな風となって吹き渡っている。

 

平澤重信──独特の詩的宇宙を、柔らかな感性で表現す

る油彩画家。人物・動物・植物・乗物・建物等々、様々

な要素を自在に組み合わせて、独自のバランスで構成さ

れたその画面は、それぞれのイメージがいきいきと響き

合って、どこか懐かしい不思議な物語を紡ぎ出す。その

微妙なバランスで配置される数々のユニークな配役達、

見たところ彼らには上も下もない。全てがここでは等価

であり、その純粋で曇りのない視線ゆえに、透明な詩情

を湛えてみずみずしく現出する時空が、見る者の心を洗

う。微妙な色彩が幾重にも堆積した、深い趣をかもし出

す地塗り、その上で軽やかに繰り広げられる自由な世界

は、いつしか私達の忘れていた無垢の心を、そこはかと

ない郷愁と共に呼び覚ましてくれる。たぶん平澤重信ほ

ど「詩人」という言葉が似合う作家はいない。その作品

の数々はさながら絵によって綴られた詩集であり、世に

「平澤ワールド」と呼称されるその独創的な世界観は、

これからもいよいよ清新な魅力を放ち続ける事だろう。