赤穴 宏 Akana Hiroshi (1922~2009)
独自の絵画表現を追求して、生涯前進的な制作を貫いた
名匠。抽象から具象へと表現を大胆に変化させながら、
静物画の新たな領域を拓いた。定石の手法とは一線を画
し、情念の躍動するような抽象的フォルムを、背景に投
影させる斬新な作風は、新しい静物画として、類例のな
い世界を創造している。晩年もなお、更なる高みへと歩
み続けたが、惜しくも87歳にして逝去、その清明な情
趣を湛える静物画は、今も見る者を魅了して止まない。
新井 知生 Arai Tomoo (1954~)
現代美術界で、最も注目される作家の一人。一貫してア
クリル絵具の可能性を追究し、現代抽象の最前線をリー
ドする作家として、先見的な制作を続けて現在に到る。
どこか宇宙的な表象を内包するその作品は、自己を超え
た未知の領域を茫洋と喚起して、見る者にかつてない新
しい世界をもたらす。従来の芸術概念であった「自我の
顕現」を離れて、「自我の消滅」を指向する独創的な制
作に、新しい時代への扉は今、碓かに開かれつつある。
池田 満寿夫 Ikeda Masuo (1934~1997)
早逝の天才。32歳の若さでヴェネチア・ビエンナーレ
のグランプリを受賞、日本を代表する現代版画の旗手と
して、常に再前衛の活動を展開する。その才能は美術を
超えて、文学・陶芸を始めとした多くの分野に及び、名
実共に「世界のイケダ」として幅広い活躍をしたが63
歳で急逝、その早すぎた死が惜しまれる。長くはなかっ
た生涯の中で、優に1000点を超える版画を制作し、
美術史の1ページを今も絢爛と飾る、文字通りの巨星。
榎並 和春 Enami Kazuharu (1952~)
風化した岩壁のような趣を湛える地塗りの上に、古いイ
コンを思わせる人物像が浮び上がる。そのどこか中世的
な作中の人物達は、見る者を深い瞑想の時空へといざな
う。壁土や弁柄等を幾重にも重ねる、独自の混合技法を
用いて、ひたすらに自己を掘り下げる内に、その世界は
より根源的な「祈り」の領域へと到る。表層的な変動を
離れ、不変の何かを希求するその作風は、精神性の欠落
した現代美術界で、いよいよその意義を増しつつある。
河内 良介 Kawauchi Ryosuke (1957~)
鉛筆画の異才。鉛筆による表現を徹底して追求し、限り
ない可能性を拓いて現在に到る。モノトーンのグラデー
ションだけで、不思議なイメージに満ちた小宇宙を描き
出し、シュールな趣を湛える独特の画風を展開する。十
数種の鉛筆を駆使して生み出される、その驚異的な細密
表現に触れた時、モノクローム芸術の思いもよらない美
しさに、見る人は思わず息を呑むだろう。いよいよユニ
ークな活躍が期待される、 次世代を担う芸術家の一人。
北川 健次 Kitagawa Kenji (1952〜)
一貫して「コラージュ」を武器に、謎めいた浪漫と斬新
な奇想に溢れた、独創的な世界を表現する。駒井哲郎に
銅版画を学び、棟方志功・池田満寿夫の推薦で活動を開始、以降ジム・ダインやクリストにも賞賛を得る等、版
画とオブジェの分野で、国際的な評価を獲得して来た。他にも写真や詩作・美術評論等、多岐に亘る活動を展開し、その鋭い詩的感性と、卓越の意匠性を駆使した制作は、現代美術シーンにおいて独自の位置を占めている。
※ 北川健次オフィシャルサイト
草間 彌生 Kusama Yayoi (1929~)
最前衛の息吹を世界に発信し続ける、現代美術の女王。
幼少期より強迫神経症に悩まされながら単身渡米し、水
玉や網目の幻視をそのまま作品化して、国際的な評価を
確立した。その後表現を拡大して、ハプニングと呼ばれ
る煽動的なパフォーマンスで注目を浴びるが、40代半
ばに帰国。常に第一線にあって、世界各地で数々の展示
会を精力的に開催し、小説・映画等分野を超えた表現も
展開しながら、その活躍は未だとどまる所を知らない。
栗原 一郎 Kurihara Ichiro (1939~2020)
一切の虚飾を剥いで、対象の本質をダイレクトに描き出
す本格派。見せかけの美を離れて、内なる美を湛えるそ
の芸術は、現代絵画の流れに浮かんだ弧舟のように、い
かなる流派にも属さない。裸婦等の人物を始めとして、
風景や建物・草花等々そのモチーフは多岐に亘るが、全てに漂う独特の憂愁は、見る程に飽きない情趣を放つ。自らの人間性を直に表現する、数少ない本物の画家として、亡き後もその存在はいよいよ重みを増しつつある。
小林 健二 Kobayashi Kenji (1957〜)
画家にして造形作家、科学者にして詩人、作曲家にして思想家、幅広い分野の境界を超えて、独創的な表現活動を行う異色作家。独自の宇宙観を底流として、斬新なアイディアと不思議な詩的イメージに満ちた特異な世界を創出する。水戸芸術館・三菱地所アルティアム・福井市美術館等々の大規模な作品展の他、各地の先進的なギャラリーで数々の個展やワークショップを展開し、その都度類例のない世界を提示して来た。そのユニークな活動はこれからも現代美術と云うジャンルを超えて、何かを求める人々に豊かなメッセージを送り続ける事だろう。
※ KENJI KOBAYASHI OFFICIAL SITE
斎藤 良夫 Saito Yoshio (1936~)
現代油彩画の第一人者。油彩の可能性を追求し、油彩一
筋に専念して現在に到る。深い趣を持つ欧州風景・力強
く躍動する海景・静謐な情趣を湛える静物画等、その世
界は多様な広がりを見せるが、そこには一貫して温かい
詩情が溢れている。安住を嫌い、常に新しい挑戦を繰り
返す中で生み出されたその作品は、巷に溢れる安直な油
彩画とは一線を画し、本物だけが持つ悠然たる風格を宿
す。自在な技巧と高い精神性を併せ持つ、実力派作家。
佐々木 和 Sasaki Kazu (1951~2009)
四季折々の身近な自然をテーマに、清新な詩情溢れる世
界を描き出す個性派。独自の混合技法から生み出される
その作品は、微妙な色彩が幾重にも綾なすユニークな画
面を形成する。他にも「密陀絵」と呼ばれる古代技法に
よる表現や水彩画等、幅広い領域にわたる探求は、見る
者を純粋で自由な世界へと導く。各地の個展活動を通し
て、独創的な作風が熱い支持を広げて来たが、近年58
歳にして逝去、そのあまりにも早い死が、惜しまれる。
中佐藤 滋 Nakasato Shigeru (1947~)
一貫してアクリル絵具による表現を追求し、詩情溢れる
独自の世界を描く、文字通りの個性派。人物や動物・静
物・街景等、様々なモチーフを自在に組み合せて、独特
のペーソスとユーモアがにじむ、不思議なノスタルジー
に満ちた時空を描き上げる。各地画廊における個展の他
に、若手詩人とのコラボレーション等々、ユニークな企
画にも挑戦しながら、質の高い制作を貫くその活動は、
いよいよこれからも、熱い注目を集めて行く事だろう。
中西 和 Nakanishi Mutsumi (1947~)
清澄な品格を湛えて、独特の静謐な世界を描き出す本格
派。自製の水性絵具や墨による描画を何度も洗い流し、
更には紙を削り出して作画するという独自の技法を用い
た制作は、日本画・洋画という狭い範疇を超えて、新し
い「日本の美」を創出している。そのモチーフは、一貫
して野菜・果実・陶磁器・野の花等ごく身近なものであ
りながら、そこからは静穏な深い情趣がにじみ出し、そ
の質実な世界観は今、静かな共感の輪を広げつつある。
浜口 陽三 Hamaguchi Yozo (1909~2000)
言わずと知れた銅版画の名匠。若き日よりパリにアトリ
エを構え、世界で初めて「カラーメゾチント」の技法を
開拓し、かつて無い斬新な版表現で、国際的な評価を得
て今日に到る。ごく身近な野菜や果実をモチーフに、静
謐で幽玄な小宇宙を創り上げるその作風は、類例の無い
独創的な表現として、美術史に名を残す。現在は日本橋
の「ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション」において作
品が常設展示され、その優れた画業を偲ぶ事が出来る。
平澤 重信 Hirasawa jushin (1948~)
独特の詩的時空を、自在に描き出す油彩画の異才。人や
動物・乗物といった日常のモチーフを組み合わせ、独自
のバランスで構成された画面は、それぞれのイメージが
豊かに響き合って、不思議な物語を紡ぎ出す。深い趣の
地塗りの上で、軽やかにみずみずしく展開される、透明
な詩情に満ちた世界。「平澤ワールド」と呼ばれるその
ユニークな世界は、ガラス絵や墨絵等にも領域を広げ、
妥協なき個性派として、清新な魅力を放ち続けている。
風鈴丸 Fuurinmaru (1969〜)
幻想的な詩情を湛えた、独特の心象世界を表現する木版
画の異才。伝統木版をベースに、高度な多色摺りを駆使
したその作品は、類例のない鮮やかな色彩に満ち溢れ、
加えてその画面に、自作の詩を刻み込む独自のスタイル
が、不思議な感性に満ちた世界を現出する。近年は版画
制作と並行して、ガラス絵や油彩・インク画・人形制作
等、表現の領域を大きく広げて、最も注目される女流版
画作家の一人として、ユニークな活動を展開している。
藤崎 孝敏 Cauvine Fujisaki (1955~)
上辺の虚飾を剥ぎ落とし、人間の本質を真っ向からカン
ヴァスに叩き付けたかのような画風。30代初めに渡仏
し、モンマルトル界隈を転々としながら、荒々しい激情
と憂愁の叙情を併せ持つ、独自の油彩画を確立する。小
手先の技芸よりは血の通った内的な表現を指向し、ダイ
レクトに見る者の肺腑を衝き、胸をえぐるようなインパ
クトを持つ作風は、極めて特異な個性を放つ。現在はブ
ルターニュに在住、現代では稀有の無頼派作家である。
舟越 桂 Funakoshi Katsura (1951~)
現代彫刻の奇才。人物をモチーフとして具象的な彫刻表
現に徹し、一貫して楠だけを素材に、内省的な独自の人
物像を制作する。一方では版画制作にも力を入れ、彫刻
家の版画という範疇を超えて、革新的な表現を版画界に
提示して来た。早くからその制作は海外でも注目され、
ニューヨークを始めとした世界各地における個展開催、
メトロポリタン美術館等にも作品が収蔵される等、その
独創的な表現は、いよいよ国際的な評価を高めている。
舟山 一男 Funayama Kazuo (1952〜)
主にサーカスをテーマとして、不思議な魅力を放つ人物
や風景を描く異色作家。深い趣を持つ地塗りの上に、独
特の哀感を湛えて浮び上がる肖像は、特異な存在感を持
って見る者に迫る。人生を綾なす喜怒哀楽を、鮮烈な詩
情で描き上げた独創的な世界、その寡黙で静謐な時空か
らは、いつしか声なき詩(うた)が深閑とにじみ出す。
単なる「美人画」に安住する作家の多い中で、描かれた
人物を超える何かを、密やかに表現する真の本格派作家。
牧野 宗則 Makino Munenori (1940~)
伝統木版の超絶技巧を駆使して、新しい版表現を開拓す
る独創的な版画家。時に30~40数度にも及ぶ驚異的
な重ね摺りを、従来の分業によらず全て単独で手掛け、
自然の生命の輝きを、息をのむような鮮やかな色彩で表
現する。山桜を版木とする古来の姿勢を貫きつつも、伝
統を現代に新しく問い直す唯一の版画家として、揺るぎ
ない評価を獲得して来た。その「北斎・広重の再来」と
謳われる類例なき世界は、他の追随を未だに許さない。
増田 泰子 Masuda Yasuko (1969〜)
不思議な魅惑を放つ女性像で、近年更なる注目を集める新鋭作家。キャンバスに漆喰の下地を施し、その上にアクリルで描画する独自の技法は、今までのアクリル表現にはなかった厚みのある質感を可能とし、そこに描き出される独特の女性像は、現代のロマネスクとも言える豊かな情趣を放って止まない。流行する美人画とは一線を画し、真のオリジナリティーを追求する数少ない画家の一人として、以降もより一層の活躍が期待されている。
三木 俊博 Miki Toshihiro (1950〜)
現代ブロンズ彫刻の奇才。イタリア国立フィレンツェ美
術アカデミーに学び、11年に亘る研鑽を積んで帰国、
主に神話や聖典の登場人物をテーマに、独特の個性溢れ
るブロンズ彫刻を発表する。あたかも精神の量塊から、
茫漠と浮び上がるかのようなその作風は、具象と抽象の
狭間を往くかつてない特異な立体表現として高く評価さ
れ、ドローイング作品の制作も併行しながら、一貫した
「人体」への飽く事なき追求は、現在も已む事がない。
南 桂子 Minami Keiko (1911~2004)
繊細な無垢の詩情を湛えて、静かに滲み出す懐かしい物
語。生涯その汚れなき童話性を失わず、独自の銅版作品
を坦々と創り続けた。国際的な大家として知られた浜口
陽三の伴侶として、その一生は控えめで寡黙な活動の内
に閉じられたが、近年、その生前を知らない若い世代を
中心に熱い支持が寄せられ、新たな再評価の波が広がっ
ている。豊かな精神性が急速に失われつつある現在、そ
の透明な妙趣はいよいよ多くの共感を集め往くだろう。
本宮 健史 Motomiya Takeshi (1959~)
瞑想する絵画。深い内省から生れる魂の形。岩絵具に大
理石等の粉末を混合した、独自の絵具で描かれるその作
品は、胸奥に染み入るような光を放射しながら、深い祈
りの風景を現出する。故三岸節子を祖母に持ち、若年に
して単身渡欧、現在はバルセロナに居を構え、故A・タ
ピエスの版画制作にも携わりながら、寡黙にして求道的
な制作を貫く。その深い精神性を湛えた芸術は、浮薄を
極める本邦の美術界に、真の芸術を提起して止まない。
森 幸夫 Mori Yukio (1950〜)
津軽の地を舞台に、深い趣を湛える北の風土を描く。荒涼とした原野、茫々とうねる砂丘、その狭間に黙々と佇む家屋、大地を吹き荒れる風雪、それら北方特有のモチーフが、幾重にも重ねられた奥深い色彩と、長い星霜の堆積したかのようなマチエールで描き出される。表層の美麗よりは内奥の真実を、見えるものよりは見えないも
のを、その制作は一切の虚飾を排して表現の根源を希求
する。現代では希薄な精神性を、濃厚に湛える本格派。
安元 亮祐 Yasumoto Ryosuke (1954~)
詩情溢れる幻想的な世界を、多様なメディアで表現する
詩人。巧みにコラージュを用いたアクリル作品をメイン
として、エッチングやガラス絵、更にはオブジェ等の立
体作品まで、その表現は多岐にわたる。人物・動物・風
景等々、様々なモチーフを通して描かれる独創的な世界
は、どこか異郷を思わせる情趣を湛えて、不思議な魅力
を放つ。常にスタイルを変化させながらも、一貫して夢
のある自由な作風が、いよいよ熱い共感を呼んでいる。
わたなべ ゆう Watanabe You (1950~2020)
土の匂い、沃野を渡る風、わたなべゆうの原点には、意
識の深層に消し難く残る、原初の記憶がある。その豊饒
なイメージが溢れる世界は、人間の戻るべき「自然」の
手触りを、力強く喚起して止まない。あたかも横溢する
魂を、ダイレクトに描き出したかの様な作風は、精神性
が置き去りにされ、小手先の手法ばかりが蔓延する現代
の美術界で、極めて特異な光芒を放つ。45歳で安井賞
を受賞、時流とは一線を画する稀代の個性派として活躍
したが、惜しくも69歳にして急逝、しかしその独創的
な画業は、必ずや美術史に比類なき足跡を刻むだろう。