PRESENT

青空の街 (2019)        油彩 / 4F
青空の街 (2019)        油彩 / 4F

232nd Exhibition

──  今、遥かなる青空の歌を  ──

第14回 栗原一郎展

 

2021年 09月16日 (木) 〜 10月03日 (日)

 

異国の基地を抱えた街に育ち、画業の全てをその街で成して、その街で帰らぬ人となる。福生に生きた画家は、自らの街に世界を見ていた。その憂愁を、その情愛を、その豪放を、その魂魄を、全てを描き切った街の上で、

故郷の空は今、唯ひたすらに青い。巨星墜ちて一年、画

家中の画家・栗原一郎の遺した、最後の絶唱を一堂に。

ヒガン花 (2019)        油彩 / 8F
ヒガン花 (2019)        油彩 / 8F

栗原 一郎 Kurihara Ichiro (1939〜2020)

 

栗原一郎の芸術は、現代絵画の流れに浮かんだ孤舟のよ

うに、いかなる流派にも収まり切ることがない。

栗原は絵具で絵を描いているのではなく、人格のような

もので描いている。人格といっても、道徳とか高踏だというのではない。栗原一郎という画家の持っている人間性そのものが、じかに表現となっているのである。

男どもはしょぼくれて、アメリカ人と若い女性だけは溌剌としていたあの時代……。栗原は、いかにも真実に、いかにも直截に、折れ釘のような線と消しつぶした色で、あの遠き日から生きて来た一人の人間の寂しさ、そ

の寂しさの内に潜んでいる画家の想いを、まるで記憶を

耕すように冷えた両手に息を吹きかけて暖め、よみがえ

らせるように描いている。

栗原の仕事には、インテリをたばかるような、物欲しげ

な切なさの押し付けや押し売りがない。色調のたっぷり

さ、思わせぶりな線で表される作品より、切なく深いの

である。野生といってもよい自らの無垢な感覚を、主知

や認識に売り渡してないところに、栗原の素晴らしい表

現があると思う。栗原一郎は、美よりも真が、感情的な

表現より知的な表出の方が、先に立って来たきらいのあ

る現代の絵画で、そういう世界とは無縁なところで描い

て来た、数少ない本当の画家なのである。

真の自然は、闇を持っている。闇を持つ自然こそが、栗

原の呼応した真の風景だった。それは、美しい色彩をち

りばめ粉飾することが、画家の天職と勘違いしてやって

来た画家達には、到底表出し得ない世界だろう。無垢な

直覚を大事にして、若々しい野生の感覚を磨いて来た栗

原にして、初めて表出し得る美なのである。明るく青空

に舞い上がるよりも、地下水のように魂の底を深く沈み

流れて来た画魂。消しゴムで闇を、思い出を、耕すよう

に描き出す命の色の神話が、そこには宿っている。

 

                 米倉 守 (美術評論家)