275th Exhibition
── 猫の膨らむ夜に ──
第9回 安元亮祐展
2025年 01月04日 (土) 〜 01月20日 (月)
朝の来ない異郷の街に、奇妙な月影が落ちる時、家並みはその輪郭を無くし、音もなく夜気へと融け出す。街角で繰り広げられる無言劇、蒼い幻想を宿す路地裏の猫たち、いつか懐かしい恋唄が風のように流れて、新たな世界への扉が密やかに開く。待望の第9回展、言葉なき詩
を一杯にはらんで今、妖精たちは静かに膨らみ始める。
安元 亮祐 Yasumoto Ryosuke (1954〜)
詩情溢れる幻想的な世界を、多様なメディアで表現する異色作家。巧みなコラージュを交えたアクリル作品をメインとして、ドローイング・エッチング・ガラス絵・オブジェ、更には舞台美術に到るまで、多岐にわたる独創的な表現を展開する。人物・動物・風景・静物等、様々なモチーフを通して描かれる、詩的な幻想に満ちた世界は、どこか異国的な情趣を湛えて、独特の不思議なノスタルジアをかもし出す。常にスタイルを変化させながらも、一貫してアクリル表現の可能性に挑み続ける、その意欲的な制作に、いよいよ共感の輪は広がりつつある。
「安元さんの絵を見ると、うらやましさを感じる。夢の世界を何の気負いもなく伸びやかに描く、星の光とそっくりの、その澄んだ目に。私は、安元さんの描く神聖化された虚構に、詩人として激しく嫉妬する。私達はあらゆる音を耳にしていながら、その実何一つ発見出来ないでいるのに、安元さんは無心の少年のように足取りも軽
く歩き回り、永遠が放つ純粋な音を聞き取っているのだ
から。耳を澄ませば、静まりかえった風景の中から、確
かな音が聞こえて来るだろう。俗世の苦味にいよいよ耐
え難くなった時、私は安元さんの描く夢の世界を散策し
て、あの澄んだ音を聞きたいと思う」 松永伍一 (詩人)
「どこか淋しく、どこか生暖かい孤独な風景。遠い昔、
どこかで出会った光景のような気もするし、夢とうつつ
の間で漂った時間のような気もする。静寂な空間で、異
質な世界と懐かしい世界とが、叙情的に溶け合っている
のである。後日、不安でありながら、澄んだナイーブな
この感性は、画家が音のない世界で制作しているからだ
と分かった。海辺や町並みを濡らす驟雨のように、デリ
ケートでしっとりとした画肌は、私達を限りなく懐かし
い詩人の風景へと誘ってくれる」 池田満寿夫 (版画家)