270th Exhibition
── キオクノカケラ ──
第8回 新井知生展
2024年 08月16日 (金) 〜 09月02日 (月)
※ 08月16日(金)・17日(土) 作家在廊
今ではないいつか・ここではないどこか、時空を超えてよみがえる記憶の欠片たち。それらは彼方の鳥となり、花となり、樹となり、月となり、始まりのない詩と、終わりのない物語を紡ぎ出す。今夏に贈る待望の8回展、
ひたすらに「描く」日々の中で、自己との長い対話から
生み出された、秘めやかにして豊かな「生」の刻印を。
新井 知生 Arai Tomoo (1954〜)
「私にとって絵画とは、世界とつながるための媒体である。自己実現と自己滅却のはざまでなされる制作の繰り返しの中で、最終的に「私」が外界を受け入れ、外界が「私」を受け入れて飽和状態に達した時、自ずから手が止まる。それは「私」が自分を包んでいる世界と等質になり、自分が外側に溢れ出ていく時である」~新井知生
水のように流れ、霧のようにたゆたい、雲のように浮かび、風のように揺らぐ。多様な色彩が堆積する空間に、ユニークな形象の浮遊する、どことも知れぬ領域。破壊も、混沌も、葛藤も、すべてをはらみ融解したような、漠然とかすみ流動するその世界は、あたかも広大な時空
間の一部を、ふとすくいあげたかのような趣を湛える。
新井知生──現代美術シーンで、最も注目すべき作家の
一人。一貫してアクリル絵具による表現の可能性を追求
し、現代抽象芸術の最前線をリードする作家として、意
欲的な活動を展開して今日に到る。当初より伝統的な油
彩によらず、現在のように広く普及する以前からアクリ
ルという画材にいち早く注目し、油彩とは異なる現代の
新しい表現を求めて、常に先見的な制作を貫いて来た。
また、アクリル表現だけにとどまらず、「コラグラフ」
と呼ばれる特殊な版表現においても、極めてユニークな
作品を発表し、海外の個展等でも高い評価を得ている。
近年の、茫漠とした広がりを感じさせる自由な作風は、
自己という狭い枠を離れて、どこか宇宙的なイメージを
内包し、自我を超えた不可思議な領域を喚起して、未だ
見る事のなかった新しい世界をもたらす。その柔らかに
開かれた時空で、未知なるものへと心を解き放つ時、人
は密やかに交感する、豊かな生命の響きを聞くだろう。
従来の芸術概念として自明であった「自我の顕現」を離
れ、「自我の溶解・消滅」を指向する独創的な制作に、
新しい時代への扉は今、静かに開かれようとしている。