281st Exhibition
─ 微風(かぜ)の予感 ─
第10回 中佐藤滋展
2025年 06月20日 (金) 〜 07月07日 (月)
※ 6/21(土)・28(土)・7/6(日) 作家在廊
窓の外を6月の曇り空がおおう午後、誰も居ない卓上には、微かな風の予感が漂う。進まない時間(とき)、よみがえる遠い日、いつしか燻(くゆ)る淡いノスタルジアの中で、忘れかけた追想は密やかな軌跡を描く。
待望の10回展、今年もクールな装いからレトロに滲む、あの懐かしき詩情を。
中佐藤 滋 Nakasato Shigeru (1947〜)
とある薄曇りの午後、忘れられた夢のような路地裏に、小さな寂れたカフェを訪ねてみたい。古ぼけた木の扉を開けると、たぶん10年前もそうであったようなたたずまいが、訪れた人を懐かしく迎えてくれる。薄暗い店内には、年月を宿した数卓のテーブルがあり、カウンターには煙草をくゆらせつつ、独り漫然ともの思う紳士。時代物のラヂオからは、異国の古い歌が低く静かに流れていて……。風雨に朽ちた枯木を思わせるような、味わい
深い独特のマチエール、そこに描き出されたユニークな
世界に浸っていると、ついそんな光景が脳裏に浮ぶ。こ
こではきっと、時が進んでいない。たぶん10年後もこ
うであるような世界に包まれて、いつしか人はカフェの
片隅で、とりとめのない物語を綴る詩人になるだろう。
中佐藤 滋 ── 一貫してアクリル絵具による表現を追求
し、詩情あふれる独自の世界を描く個性派作家。人物・
静物・乗物・街景等、様々な要素を自在に組み合わせな
がら、どこか懐かしいユニークな時空を紡ぎ出す。大胆
なデフォルメを効かせたその作風には、独特のユーモア
とペーソスが滲み、そこはかとないノスタルジアを湛え
つつ、見る者をレトロでシュールなワンダーランドへと
いざなう。渋く抑えられた色彩でありながら、時に染み
入るような温かさを宿し、一見モダンでクールなタッチ
の陰に、繊細な情感をふとかいま見せる画面。その尽き
ない魅力を放つ作風は、従来のアクリル絵具による無機
的なイメージを離れて、かつてない新たな表現を獲得し
ている。しかしながらそれは、決して油彩を指向する訳
ではなく、あくまでもアクリルのオリジナリティーを追
求したが故の、極めて個性的な帰結と言えるのだろう。
都内を中心とした各地画廊における個展の他、若手詩人
とのコラボレーションによる詩画集の刊行等、分野を超
えた企画にも意欲的に挑戦しながら、時流に左右されな
い独自の制作活動を、坦々と貫いて現在に到っている。