PRESENT

Box Collection No.7 (2016)       板に油彩 / 38.0x53.0cm
Box Collection No.7 (2016)       板に油彩 / 38.0x53.0cm

229th  Exhibition

──  Just as long as You stand  ──

第13回 わたなべゆう展

 

2021年 06月24日 (木) 〜 07月11日 (日)

 

日々画面の上で、農耕に励んでいる──自らの制作を、画家はそう語っていた。精神の畑を耕し、地味を養い、イメージを育み、やがてそれは濃厚な大地の香を孕む、あの特異の表現として結実する。そして逝去の後も、作品はいよいよ生き続けるだろう、農場に立つ画家の在る

限り。今なお豊饒の生気を放つ、あの魂の結晶を再び。

Box Collection S-20 (2015)      板に油彩 / 24.0x29.5cm
Box Collection S-20 (2015)      板に油彩 / 24.0x29.5cm

わたなべ ゆう You Watanabe (1950〜2020)

 

「物質的平面である事をより強く意識して、いかに美し 

 く汚すか、いかに美しく壊すかという事を考える。そ

 して、記憶が発酵して出て来るニオイを有形化する。

 原初的な形の背後にある空気・匂い・古び・汚れ、ま

 たは時間の蓄積による風化、これらの日本人独特と思

 われる美意識が、画面の中に入り込んで来る。これを

 共有された精神風土の記憶として、提示する事は可能

 だろうか。例えば、現代社会が見失いかけている精神

 的な豊かさを、画面に取り込む事はできるだろうか。

 出口を見失ってしまった迷路から抜け出す為には、入

 り口にまで戻るしかない。美術の発生したその原点ま

 で戻って、あの豊饒さと緊張を手に入れたいと思う」

 

大地の匂い、沃野を渡る風、時の限りない堆積を遡行し

た果てに、おそらくは消し難く残るであろう、原初の記

憶。わたなべゆうの原点は、そんな理性の表層には決し

て浮上する事のない、感性の深層にあるように思える。

「記憶に残っている事が、正に描かなければならない事

だ。消しても消しても出て来てしまうもの。くり返しく

り返し表れてくるもの」と本人も語るように、その豊潤

なイメージが溢れる独自の世界は、本来人間が在るべき

場所としての「自然」を、殊に現代の忘れかけた「土」

の温もりと手触りを、見る者に強く喚起してやまない。

幾重にも塗り込まれた重厚なマチエール、生命が多岐に

分化する以前を思わせる始原的なフォルム、その横溢す

る魂をダイレクトに描き出したかのような作風は、いつ

しか精神性が置き去りにされ、小手先の手法ばかりが蔓

延する現代の美術界で、極めて特異な光芒を放つ。45

歳で安井賞を受賞、賢しらな方法論の跋扈する現代美術

シーンに、荒々しい原初の生気を吹き込み、時流とは一

線を画する稀代の個性派として活躍したが、昨春惜しく

も69歳にして急逝、しかしその四半世紀に亘る独創的

な画業は、必ずや美術史に比類なき足跡を刻むだろう。