PRESENT

ふっと立ちどまったようにして立っていた 油彩 / 3S
ふっと立ちどまったようにして立っていた 油彩 / 3S

186th  Exhibition

── 記憶の膂力 ──

第14回 平澤重信展

 2018年 01月05日 (金) 〜 01月22日 (月)

※ 13日 (土)・21日 (日) 作家来廊 

 

ある置き忘れられた午後の狭間で、遠い記憶はしなやかな力を得るだろう。それは静かな風となって薄明を吹き渡り、立ちよどむ暗緑の霧を晴らす。彼方の風景がその厚いヴェールを払い、清らかな呼吸を取り戻す時、忘れていた世界は音もなく立ち現れる。2018年初春、みずみずしく蘇る力を孕んで、新たな時空への扉が開く。

あなたの空をとびたい      油彩 / 3S
あなたの空をとびたい      油彩 / 3S

平澤 重信  Hirasawa Jyushin  (1948〜)

 

平澤重信の描き出すイメージ、それをどう表現したら良いのだろう。どことなくもの哀しいような、うら淋しいような、しかしどこかしら軽やかで柔らかな、懐かしく澄んだ風の吹くような、そんな言葉ではつかみがたい不思議なアトモスフィア。何か漠然としたある気配、そこはかとない風情、とらえどころのない陰影、それとなくにじむ情緒、そんな言葉にはならない雰囲気・空気感を「アトモスフィア」という言葉で呼ぶのなら、その表現の根幹を成すものは、正しくその言葉にならない空気感=アトモスフィアなのだろう。それは大作を描く時により顕著となるのだが、画面に様々なキャラクターは登場

しても、そこに物理的な中心は置かれて居ない。言い方

を換えれば、全てのモチーフはある潜在的な中心を暗示

するが、しかしその中心には何も無い。ただ言葉になら

ない想いだけが、軽やかな風となって吹き渡っている。

 

平澤重信──独特の詩的宇宙を、柔らかな感性で表現す

る油彩画家。人物・動物・植物・乗物・建物等々、様々

な要素を自在に組み合わせて、独自のバランスで構成さ

れたその画面は、それぞれのイメージがいきいきと響き

合って、どこか懐かしい不思議な物語を紡ぎ出す。その

微妙なバランスで配置される数々のユニークな配役達、

見たところ彼らには上も下もない。全てがここでは等価

であり、その純粋で曇りのない視線ゆえに、透明な詩情

を湛えてみずみずしく現出する時空が、見る者の心を洗

う。微妙な色彩が幾重にも堆積した、深い趣をかもし出

す地塗り、その上で軽やかに繰り広げられる自由な世界

は、いつしか私達の忘れていた無垢の心を、そこはかと

ない郷愁と共に呼び覚ましてくれる。たぶん平澤重信ほ

ど「詩人」という言葉が似合う作家はいない。その作品

の数々はさながら絵によって綴られた詩集であり、世に

「平澤ワールド」と呼称されるその独創的な世界観は、

これからもいよいよ清新な魅力を放ち続ける事だろう。