PRESENT

ボトルの中の夜 (2024)      Acrylic / 32x32cm
ボトルの中の夜 (2024)      Acrylic / 32x32cm

270th Exhibition

── キオクノカケラ ──

第8回 新井知生展

 

2024年 08月16日 (金) 〜 09月02日 (月)

※ 08月16日(金)・17日(土) 作家在廊

 

今ではないいつか・ここではないどこか、時空を超えてよみがえる記憶の欠片たち。それらは彼方の鳥となり、花となり、樹となり、月となり、始まりのない詩と、終わりのない物語を紡ぎ出す。今夏に贈る待望の8回展、

ひたすらに「描く」日々の中で、自己との長い対話から

生み出された、秘めやかにして豊かな「生」の刻印を。

月の満ち欠け (2022) Acrylic/ 35x28cm
月の満ち欠け (2022) Acrylic/ 35x28cm

新井 知生 Arai Tomoo (1954〜)

 

「私にとって絵画とは、世界とつながるための媒体である。自己実現と自己滅却のはざまでなされる制作の繰り返しの中で、最終的に「私」が外界を受け入れ、外界が「私」を受け入れて飽和状態に達した時、自ずから手が止まる。それは「私」が自分を包んでいる世界と等質になり、自分が外側に溢れ出ていく時である」~新井知生

 

水のように流れ、霧のようにたゆたい、雲のように浮かび、風のように揺らぐ。多様な色彩が堆積する空間に、ユニークな形象の浮遊する、どことも知れぬ領域。破壊も、混沌も、葛藤も、すべてをはらみ融解したような、漠然とかすみ流動するその世界は、あたかも広大な時空

間の一部を、ふとすくいあげたかのような趣を湛える。

新井知生──現代美術シーンで、最も注目すべき作家の

一人。一貫してアクリル絵具による表現の可能性を追求

し、現代抽象芸術の最前線をリードする作家として、意

欲的な活動を展開して今日に到る。当初より伝統的な油

彩によらず、現在のように広く普及する以前からアクリ

ルという画材にいち早く注目し、油彩とは異なる現代の

新しい表現を求めて、常に先見的な制作を貫いて来た。

また、アクリル表現だけにとどまらず、「コラグラフ」

と呼ばれる特殊な版表現においても、極めてユニークな

作品を発表し、海外の個展等でも高い評価を得ている。

近年の、茫漠とした広がりを感じさせる自由な作風は、

自己という狭い枠を離れて、どこか宇宙的なイメージを

内包し、自我を超えた不可思議な領域を喚起して、未だ

見る事のなかった新しい世界をもたらす。その柔らかに

開かれた時空で、未知なるものへと心を解き放つ時、人

は密やかに交感する、豊かな生命の響きを聞くだろう。

従来の芸術概念として自明であった「自我の顕現」を離

れ、「自我の溶解・消滅」を指向する独創的な制作に、

新しい時代への扉は今、静かに開かれようとしている。